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「これから社会はどう変わるのか?――技術・データと社会をどうつなぐのか」 第1編 危機認識編 『社会OSを再起動せよ――AI時代、日本企業の構造不全が始まっている』

「これから社会はどう変わるのか?――技術・データと社会をどうつなぐのか」 第1編 危機認識編 『社会OSを再起動せよ――AI時代、日本企業の構造不全が始まっている』

現在、技術革新のスピードはかつてないほど加速しています。
「IT」「IoT」「DX」「生成AI」「ロボティクス」など、私たちの周りには、未来を想起させる言葉があふれています。
しかしその一方で、社会や企業の現場は、必ずしもその変化に追いついているとは言えません。

なぜ、技術が進んでも社会は思うように動かないのか。
AI時代に本当に求められる「人のチカラ」とは何か。
そして、その未来像をどう戦略的に実装し、社会や仕事に根づかせていけるのか。

本連載では、社会文化研究家・池永寛明氏に3つの視点からお話を伺いました。
まず 「危機認識編」 では、時代遅れとなった社会OSの構造的課題を明らかにし、
続く 「未来展望編」 では、AIと人が共創する未来像を描き、
最後の 「実装戦略編」 では、未来の社会OSデザインを社会や企業に定着させるための具体策を探ります。

未来は与えられるものではなく、自らつくり続けるもの。
本記事を通じて、みなさまが次の一歩を考えるきっかけとなれば幸いです。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など

私たちは今、AIやデジタル技術の急速な進化を目の当たりにしています。
しかし、現実の社会や企業の現場は、そのスピードに追いつけていないのではないでしょうか。
いくら新しい技術が登場しても、人の働き方や制度、組織文化が昭和の設計思想=人を十分に活かせない設計にとどまっている限り、社会は前に進みません。
本編では、AI時代に突入した今こそ直視すべき「社会OSの構造不全」と、その背景にある「人を活かす設計の滞留」を明らかにします。

第1編 危機認識編 社会OSを再起動せよ――AI時代、日本企業の構造不全が始まっている

2025年7月5日、データビリティコンソーシアムが主催する「AI講座」の幕が上がった。特別講演に立ったのは、日本経済新聞COMEMO KOLであり、同コンソーシアム事務局長の池永寛明氏。テーマは「これから社会はどう変わるのか?――技術・データと社会をどうつなぐのか」

壇上から放たれた最初の言葉はこう
「技術が進めば社会が変わる、というのは幻想です」

(参考)データビリティコンソーシアム https://cds.or.jp/

1章. 技術が進んでも社会が動かない理由

DX、生成AI、IoT、ロボット、EV、自動化、メタバース…。
ここ数年、私たちはかつてない速さで新技術が現実化していく様子を目撃してきた。
だが社会の現場感覚は変わっていない。
理由は明快だ。技術の受け皿である社会のOS――制度、組織、働き方、価値観――が、昭和の設計思想のままだからである。
終身雇用を前提にした人事制度、三世代同居を前提にした福祉制度、男性正社員・専業主婦モデル…。
現実は、単身世帯が最多、共働きが標準、商圏はネットと物流で塗り替えられた。それでも制度も職場文化も、“前提の化石”を抱えたまま動いている。

2章. 「人が足りない」の真犯人

製造、建設、交通、物流――どの業界でも「人が足りない」という声が上がる。
だが、それは単なる人手不足ではない。
2024年、メーカーで出荷停止が相次いだ。ERPシステムの不具合と報じられたが、真因は別にあった。
ベテランが蓄えてきた経験知や判断の勘所が共有されず、退職とともに失われる。新人は「見て覚えろ」式のOJTでは習得できず、育成の時間も削られる。結果、若手は孤立し、離職する。
鉄道のダイヤ乱れや保守遅延、物流の事故率上昇、建設の品質事故、メンテナンス現場の属人化――構造は同じ。
結論は明快である。
「人が足りない」のではなく、「人を活かす設計ができていない」のだ。

3章. 再起動が必要な「会社OS」

会社のOSとは、単なるシステムではなく企業の設計思想そのものだ。
終身雇用・年功序列前提の人材設計、上意下達型の意思決定、暗黙知依存の育成――これら昭和型の前提は、令和の現場に合わない。
再起動とは、単なる制度刷新ではなく、「何を大切にし、どう社会に価値を創造するのか」という哲学レベルの問い直しである。

4章. 生成AIがもたらす「問いの可視化」

生成AIは魔法の解決装置ではない。
「なぜこの工程なのか」「別のやり方はないのか」という問いを浮かび上がらせるサポート役だ。
ある工場で若手が「この工程で3秒置く理由」を問うと、ベテランは「昔からそう」と答えた。
AIに尋ねると、海外では温湿度に応じて秒数を調整している事例が見つかった。
その情報をきっかけに議論が始まり、仮説が立ち、実験を経て改善に至った。
改善を導いたのはAIではない。
AIがもたらした情報を、人間が問い直し、考え、判断したからだ。

5章. AIは伴走者、人が主役

AIは情報を集め、比較し、整理する。だが意味づけし、優先順位を決め、行動に移すのは人間だ。
AIは「答えの装置」ではなく「問いの伴走者」である。
そして、その伴走を活かせるかどうかは、人間の持つ想像力・洞察力・共感力にかかっている。

6章.未来展望への問い

では、このAI時代に求められる「人のチカラ」とは何か。
それは単なる経験や技能のことではない。
未来を構想し、課題の本質を見抜き、周囲を巻き込みながら解決へ動かす力だ。
次編「未来展望編」では、この“人のチカラ”がどのように未来都市の設計思想を形づくり、AIを真のパートナーに変えていくのかを見ていく。

(次号につづく)