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関西大学様 レジリエンスキャンパス構想についてのインタビュー

関西大学様 レジリエンスキャンパス構想についてのインタビュー

関西大学は全国の教育・学習支援機関に先駆けて、2016年に第一回国土強靭化貢献団体認証(レジリエンス認証)を取得した団体です。教育機関で初のレジリエンス認証取得を行った理由には、大学の防災拠点化と持続可能性を目的とする、レジリエンスキャンパス構想がありました。

今回、関西大学の千里山キャンパスにおける設備管理を実施している大阪ガスファシリティーズが、このレジリエンスキャンパス構想について管財局長の三宮様・管財課長の大野様・施設課長の松浦様へインタビューを行いました。

プロフィール

プロフィール

――本日は関西大学さまのレジリエンスキャンパス構想について、管財局の三宮様・大野様・松浦様へインタビューいたします。
皆様、よろしくお願いいたします。

お三方 よろしくお願いいたします。

お三方

阪神・淡路大震災から始まった構想が実を結んだ

――関西大学さまは全国の教育機関に先駆けてレジリエンス認証を取得された、ということですが、そのようなレジリエンスキャンパス構想を始めた理由はどのようなものでしょうか。

松浦 構想が始まったのは2016年でした。地域活性化や利便性の確保、より良いまちづくりの機運が高まったことから、吹田市、大阪府茨木土木事務所、阪急電鉄株式会社、そして本学の4者による「関西大学周辺まちづくりに関する包括連携協定書」が締結されました。そのあとに各地域の住民自治会などを巻き込みながら、災害時に強い大学キャンパスとは何か、災害時にキャンパスがどう貢献するのか、新しい価値をどう作るのか、などの課題解決への取り組みを進めていった結果、レジリエンス認証の取得にも至りました。

レジリエンスキャンパス構想は、南海トラフ巨大地震などの大規模な災害が発生した時に備えて、キャンパスを「地域の方を受け入れる防災拠点」として機能させるため、吹田市との連携のもと、大学ならではのあらゆる資源を活用・投入して環境整備を行う官民連携事業です。

――なるほど、構想は比較的最近なのですね。けれども、非常に防災設備や訓練が充実しているようなのですが、そちらは構想以前からあったのでしょうか。

松浦さん

松浦 はい、構想という形で発表したのは2016年ですが、防災についての考えは2016年以前からありました

スタートは、1995年の阪神・淡路大震災を経て、1998年に関西大学が吹田市から災害時の一時避難地の指定を受けたことです。また、2005年の鳥インフルエンザ流行も「事業継続」に対して考えるきっかけになりました。

もともと本学千里山キャンパスは、吹田市の市道が中を通っているような、開かれたキャンパスになっています。だからこそ一時避難地に選ばれたわけですが、本学の学生・教職員はもちろん、周辺地域の皆さんが避難できる場を作る必要があったわけです。

甲子園球場10個分、約10万坪の敷地には、屋外施設で2万人、体育館などの屋内施設には数千人の避難が可能です。なので、断水時の飲料水供給のために地下水820トンを貯留しているほか、体育館には8,000人が3日は保つ食料、毛布や簡易トイレを用意しています。備蓄している物資については、体育館の中でガラス張りにして誰でも中身を確認できるようにしています。

また、発災時には学生ボランティア団体の力を使った活動を行えるよう備えています。

さらに2010年にはBCP(事業継続計画)を策定しました。加えて、災害について学び、備えるために同年に社会安全学部・社会安全研究科(大学院)が設置されました。そして、この年から毎年、「関大防災Day」として、学校を挙げて大規模な防災訓練を行っております。
約1万人の学生が参加する防災訓練というのは全国の大学を見てもあまりないことかと思います。

もちろん、内輪の防災訓練だけではなく、関大防災Dayの訓練には地域の皆様にも参加いただいています。学生・教職員と地域住民の方とで協力して避難訓練を行ったり、備蓄食料のうち更新が必要となったものを使って大規模な炊き出しを行ったりしています。他にも関大防災Dayでは、パートナー協定を結ぶ日本赤十字社と連携した防災・救護訓練など、地域の防災拠点となる場を作ってきました。このような各所が連携する大規模な取り組みについては、実際の発災時を想定した施策検証の場としても機能しています

パッと生まれたのではなく、積み重ねで構想が作られた

――ありがとうございます。防災拠点にふさわしい場になるように、準備を積み重ねられてきたわけですね。

三宮 ええ、突然パッと生まれた打ち上げ花火のような構想ではなく、少しずつの積み重ねの中 で、レジリエンスキャンパス構想という形が作られていきました。これは既に申し上げた通り、本学の学生だけでなく、周辺地域の皆さんが避難してくる場を作ることです。大学だけでできることには限度がありますから。
本学の周囲を見ると、キャンパスの下を名神高速道路が通り、阪急電鉄の線路がすぐそばにあり、その線路に並行する大阪府道や一級河川もあります。災害が起こった時には、道路は通行不能になるかもしれない、電車は止まるかもしれない、河川は氾濫するかもしれない。そういった状況で、キャンパス内だけで完結した防災はできても、周辺地域の皆さんの避難という点では不安があります

三宮さん

――産・官・学での協力が必要だったと。しかし、そうした大規模な防災のための協力というのは、進めていく上で大変ではありませんでしたか。

松浦 そうですね、それぞれの組織にとっての最善が異なるので、すり合わせていくのは大変でした。

しかし、最終的には災害弱者の人を助けないといけないという点で一致団結しました。例えば緊急車両のルート確保をより確実なものにするため、踏切拡幅工事に着手の予定となっています。

――ありがとうございます。地元の方も避難する場所と考えれば、キャンパス内だけでなくキャンパスの外と協力しなければならないというのは、言われてみればその通りです。しかし、そこまで踏み切るのはかなり思い切った行動が必要だったのではないでしょうか。

三宮 うーん、正直なところ、そこはあんまりストレスなく踏み切った感じですね。一大決心を、というよりは「やらなきゃいけない」という使命感だと思っています

だからこそ防災訓練の際には近隣の方に積極的に参加してもらうようにしています。例えば夜間など職員がいない状況で発災した場合、職員だけが防災グッズの場所を知っていても意味がありません。むしろ、避難してくる地域の方が自由に使えてこその備えだと思っています。

“誰でも開かれたキャンパス”という啓発活動を行っている

三宮 それに、本学の場合、研究施設を守るという観点から電源系統をメイン・サブ併せて3系統用意しています。できるだけ発電地域の異なる電気をバックアップに取ることで、発災時でも明かりが消えない状態を目指しています。さらに、緊急時の自家発電設備も設置しているため、周りの地域が停電したとしても、本学の一部のエリアは明かりがついたままとなります。本学がさながら灯台のように暗闇に浮かびあがることで、避難時の道標となりますので、それが地域の方の精神的な安心にも繋がればと思っています。

しかしながら、実は多くの方が「大学の敷地に勝手に入ってはいけない」と思っているんですね。ですので、このハードルを取り除き、誰でも入れるという啓発活動を継続する必要がありました。普通、大学の入り口には「関係者以外キャンパス内立ち入り禁止」などの看板が立っていますよね。

――ええ、不審者などが入ってこないように一般的にはそうなっていますね。確かに、あの看板が立っていると、学園祭などイベント時以外はちょっと入りづらいですね。

三宮実は、うちにはそのような看板がありません。2年前までは看板を立てていたのですが、思い切ってすべて撤去し、「関大を歩くと、ほっとする」という看板に変えています。

看板

――えっ!? そうなんですか!?

三宮 はい、キャンパスの入り口には立てているので、チェックしてみてください。誰でも入りやすいように開けているので、普段から散歩したり、食堂でお食事したりしてもらってもいいんですよ。

――誰もが出入りできる防災の場として学校を閉じないというのは、心意気を感じますね。

大阪ガスファシリティーズは使命感の溢れる会社だ

――しかし、24時間稼働する防災拠点として施設を作っていくというのは大変な作業かと思います。大阪ガスファシリティーズと一緒に仕事をしていく時に起こったトラブルや苦労についてはどのようなものがありましたか?

三宮 いえ、実は全く苦労しなかったんですよね。施設管理そのものには大変なことが多くあるかと思います。ただ、大阪ガスファシリティーズさんが普段からメンテナンスを行ってくださっているので、例えば2018年の台風21号だとか大阪府北部地震の時にも、迅速に授業を再開できる体制を整えることができました。停電時は、すばやく予備発電機に切り替えて動かしたり、1,000台以上あるトイレを空気抜きして再使用できるようにしたり、そういった大変な仕事があるはずなのですが、スムーズに対応いただきました。

大野 レジリエンスキャンパス構想を進めるにあたっては、新設備の導入だけでなく、既存の設備も有効的に活用していくため、泥臭い改善・メンテナンス作業も繰り返していくことになります。にもかかわらず絶対に、何か起きても大阪ガスファシリティーズの担当者さんは「これはできません」とおっしゃいません。「これが仕事ですから」と、こちらの要望に寄り添った作業を、使命感をもって行っていただいていると思っています。

大野さん

――それはカッコいいですね。関西大学さんに寄り添っているメンバーがいるからこそ、レジリエンスキャンパス構想が進んだわけですね。

三宮 はい、業者というよりはパートナーであり、時にはリードして提案してくれます。その上で、同じ設備を使いながら、キャンパス全体での大幅な省エネという結果も出しつつ無理をしない省エネをやってくださっているのは、大阪ガスファシリティーズさんだからこそですね。

特にこの、無理をしない省エネ、というのは大事だと思っています。省エネ、再エネ、ゼロカーボンなどは確かにトレンドの言葉なのですが、前提として安定したエネルギー供給があり、災害などに強くなければいけません。日常から我慢を強いる、いざという時に使えない、という状況になるなら、省エネが絵に描いた餅になってしまいます。防災拠点にもなる千里山キャンパスなので、強靭性が第一で、そのうえで省エネ、という優先順位がありますが、大阪ガスファシリティーズさんはそこを分かった上で管理を行ってくださっています。

――そうですね、ゼロカーボンは重要ですが、安定的に健全な形でしていかなければなりませんね。

強靭性を前提に、ゼロカーボンを健全な形で進めていく

――ありがとうございます。では、これからの関西大学のレジリエンスキャンパス構想について、計画していることがあれば教えていただけますか。

松浦 はい。強靭性を前提に、ゼロカーボンを健全な形で進めていく、ということで、まずはキャンパス内の照明をLED化しようとしています。キャンパスは非常に広いですが、10年ほど掛けて更新を進めていく予定です。まずは2022年に外灯をすべてLED化し、続いてグラウンドもLED化する計画を立てています

ライトアップ

このとき、ただLED化するだけではなく、防災と学生の安全、そして学生や近隣住民の方が楽しめる・訪れたくなるキャンパスをすべて満たせる外灯を考えています。例えば正門からのメイン通路と、キャンパス内にある1,300本の桜を始めとした四季折々の木をライトアップします。実験などでどうしても遅くなることもありますし、クラブ活動を行う学生も夜間までキャンパスに残ることがありますが、そういった学生の帰宅が安全になり、かつ楽しくなるような見せ方を行いたいと考えています。LED化によって電力は6割カットしつつ、明るく安全なキャンパスを作れます

加えて、LEDの電源として再生可能エネルギーを利用することも構想中です。太陽光発電システムを導入して、昼間は蓄電池に電気を溜め、夜間はその電気を利用してライトアップする仕組みを作ることで、電源の強靭化をさらに進めつつ、省エネ・ゼロカーボンにつなげる、ということを考えています。

学生さんたちに、自分たちにはなかったような柔軟な発想を

――ライトアップは素敵ですね。LED化によって防災と安全、ゼロカーボンのすべてにつながるというのは、おっしゃっていた無理をしない省エネを体現していると思います。

それでは、最後に話題を変えてお聞きします。関西大学様にとって、2022年は大学昇格100年、千里山キャンパス移転100年、学是「学の実化」の提唱100年などに当たると聞いています。何か特別なイベントなどは予定されていますか?

三宮 はい、まず本学の中興の祖、山岡順太郎の精神を次世代に引き継ぎ、学びと出会いの場となるよう胸像周辺のエリアを整備し、銘板を設置しました。このエリアは学内でも古木や大木が多いエリアのため、ライトアップもしています。

山岡順太郎

大学昇格100年となる2022年6月5日には、記念式典並びにシンポジウムを開催しました。 また、千里山キャンパスの博物館で、山岡順太郎をテーマに記念展示会「真理の討究 学の実化」を開催しています。(2022年6月30日まで)

シンポジウム

さらに、「学の実化」をテーマとして、将来の社会をリードする経済人・起業家を育成することを目的とした「山岡塾」を開講します。専門家や経営者の助言を得ながら、チームで協働して社会的課題の解決を行います。

一方で、これからの千里山キャンパスの在り方として、カーボンニュートラルは、やはり進めていかなければならないと思っています。LED化や空調の高効率化で脱炭素を進めてはいますが、ゼロカーボンの実現のためにはもうひとひねりしなければならないな、という課題を感じています。

無理を強いるゼロカーボンではだめですが、ゼロカーボンという社会課題にどう向き合っていくかについて、教育や共感がなければなりません。これからを担う学生さんたちに、自分たちにはなかったような柔軟な発想をしていってほしいです。

――本日は貴重なお時間をありがとうございました。今後、レジリエンスキャンパス構想のトップランナーとして様々な取り組みを続けられるにあたって、弊社もインフラ面でのサポートを継続させていただきます。

お三方 ありがとうございました。

 

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