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コロナ禍後社会はどうなる(第1回:コロナ禍がもたらした変革)

コロナ禍後社会はどうなる(第1回:コロナ禍がもたらした変革)

新型コロナウイルスの世界的流行は、世界を大きく変えたと言われています。いま私たちも、その新しい世界の中でもがき苦しみ、ときには喜び楽しみながら流れに身を委ねている状態です。
では、この流れはどこに行き着くのでしょうか。コロナ禍が終わったとき、この日本社会はどうなっているのか、何が求められていくのか、働き方はどう変わるのか。コロナ禍後社会を研究している社会文化研究家 池永寛明氏にインタビューしました。
連載でお送りしていきます。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家
(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

・日本経済新聞 note 日経COMEMOキーオピニオンリーダー
・大阪大学 Society5.0 実現化研究拠点支援事業 (一社)データビリティコンソーシアム 事務局長・well-being部会会長
・大学・企業等向けの講演講義多数
・著書(日本再起動」「上方生活文化堂」など)

「禍」の意味

まず、本論を通じて念頭に置いていただきたいこと、それはコロナ禍の「禍」という字についてです。これは「ワザワイ」という字なのですが、「ワザワイ」と聞くと、みなさんは「災害」の「災」をまず思い浮かべるのではないでしょうか。はたして「禍」と「災」の違いは何か?その答えは「元に戻せるかどうか」なのです。

ワザワイ

すなわち、「災」には、壊れたものは直せる、なくなったものは作り直せるという意味が、一方「禍」には、「元に戻らない」という意味が込められているのです。したがって、「コロナ禍」には「コロナが収束しても元には戻らない」という意味が込められています。

コロナ禍になって2年半が経過しましたが、ぜひこのコロナ禍によって起こったことが「元に戻りそう」か「元には戻らなさそう」かを考えながら、本論を読んでいただければ幸いです。

コロナ禍と「リセット」

さて、今回のコロナ禍について、明治維新、第二次世界大戦での敗戦に続く近代以降3度目の大断層、「リセット」だと聴くと、どう思われるでしょうか。

それでは、イメージのしやすい2度目の「リセット」、1945年の敗戦から歴史を振り返ってみましょう。

コロナ禍と「リセット」図

1945年に敗戦を迎えた日本は、GHQによって改革が進められます。憲法の改正から政治体制の変更、財閥解体に農地改革、そしてこれに伴う価値観の大きな変化が起こりました。

以降は高度成長期・バブル景気と経済的には右肩上がりが続き、1990年にピークを迎えました。ですがここを日本経済の最盛期として、その後日本は、当初は「失われた20年」、さらには「失われた30年」と言われる形で低成長の時代、世界から見れば相対的に衰退する時代を過ごすことになります。

そして今、コロナ禍に入り、さらには2022年からはウクライナ紛争に入っています。

この敗戦以降の約80年間で、多くの物事が変化してきました。ですがそれは、敗戦直後の劇的な変化、強制的な「リセット」が浸透する過程で徐々に変化し確立した価値観やルールです。そのように確立された「戦後システム」は、ときには「昭和」という言葉を使って語られることもあります。

それを踏まえ、このコロナ禍はどうでしょうか。

平成の時代から、多くの「昭和」は適合不全を指摘され、それでも見直しされずに令和に至りました。

ですが、そうやって生き延びた多くの「昭和」がコロナ禍を経て、劇的に令和へとアップデートされています。日本だけでなく、世界中で、です。しかも、敗戦のときとは違う、強制的ではない形で「リセット」が起きているのです。

では、この「リセット」によって、この低成長の時代を過ごした日本はどう変わっていくのでしょうか。この図に示される矢印は、どうすれば一番上に行き着くことができるのでしょうか。

「リセット」をどうすれば活かせるのか、それを考えていきたいと思います。

これからの社会を考える起点

ではまず、コロナ禍という「リセット」を契機に、これからの社会を考える際の起点はどこか、思考の流れはどうなるかについて考えていきましょう。

社会構造変化のメカニズムについて図示したので、ご覧ください。

これからの社会を考える思考の流れ

左側から順に、縦長の5つの枠が並んでいます。また、この枠の下には「技術革新・知的基盤(歴史・文化)」が存在し、それぞれの枠を支えています。

この図を用いて変化の流れを見ると、左側にある大きな転換点、「リセット」を起点に変化が起こり、右側へと次々に波及していくというイメージが掴めるのではないでしょうか。

ですが、これまで多くの人たちは、右側から左側に向かって考えようとしていました。

都市・地域はどうあるべきか、産業はどうあるべきか、経済はどうあるべきか…

これら右側にあるものを起点に、左側に向かって考えようとしていたのです。さらには技術が中心に社会を変えると考えがちでした。

さて、ここでコロナ禍という「リセット」で何が起こったのか思い出してください。

社会的な価値観の大きな変化が行動様式を変えていきました。結果として、この様々な都市・地域・産業形態が変わりつつあります。つまり、本来の進み方である「左側から右側へ考える」という流れに戻ろうとしているのです。

これからの社会を考える思考の流れは、左側から右側へ、価値観の変化から導かれる行動様式の変化、これがポイントなのです。

技術が変えてきた「場」と「時間」

明治維新でのリセット以降、技術の進歩とは「より遠く・より早く」が1つの大きなテーマです。蒸気機関車に始まり、新幹線、リニアモーターカー、あるいはコンコルド、スペースシャトルのように、常に人々は速さを追求し、「より遠く・より早く」の実現を目指してきました。そして人々は「時間」の概念を変えてきました。

ですが、かつて蒸気機関車で8時間かかっていた東京~大阪間が新幹線によって2時間半まで近づき、「時間」の概念が大きく変わろうと、ヒトが東京と大阪の間を移動していることに変わりはありません。

蒸気機関車と新幹線

10年後にリニアが開業しようとも、東京と大阪という「場」で得られるモノは今も昔も500km離れたままなのです。

しかし、技術は「時間」だけでなく「場」も変えています。

たとえば、かつて、伊勢の銘菓「赤福」を食べたいと思うと、遠くお伊勢さんまで行って買うことが必要でした。ですが、次第に難波で買えるようになり、梅田で買えるようになり、ついには自宅で買えるようになりました。自宅からスマホで注文して、自宅にいながら手に入るようになったのです。

モノを得るためにヒトが移動しなければいけなかったのが、モノがヒトのほうに移動してくるようになった。この「場」で得られるモノが変化した。このような変化は、コロナ禍を境として急速にそのペースを上げているのです。

「リセット」で起こったこと ―10年分の大変化―

みなさんは関西経済連合会(関経連)の「関西ビジョン2030」をご覧になったことはあるでしょうか。この検討委員として、コロナ禍の2020年にコロナ禍後の2030年の議論をしていました。その時、ある経営者の方がこうおっしゃいました。

「時代は先に進んだ。2030年が一気に来た」

これはテレワークやオンラインビジネスの普及を指しての発言でしたが、2030年に実現するだろうと思っていたことを、2020年に10年前倒しでやっているという意味合いです

関西ビジョン2030

今、「それは絶対に無理」と言われていたようなことが一気に実現しています。

テレワークやオンラインミーティングはもちろん、オンライン診療も遅ればせながら徐々に広がりつつあります。後段でのポイントにもなりますが、街・都市・地域を考える中で、医療の革新というのは特に大きな影響を持ちます。そしてメタバース化によっても今後、大きな社会変化がくるのではないでしょうか。

「それはまだやる意味がない」「時期尚早」「前にも考えたけどメリットがなかった」などと言って、真剣に考えもせずに先送りをしてきたことが、コロナを契機に取り組み出している。

2030年に実現すると言われていたことが、10年前倒しで実現している。これがいま起こっていることなのではないでしょうか。

コロナ禍とは場と時間の構造変革である

コロナ禍は「リセット」だとお話しました。これまでの社会・生活・経済システムをリセットすることにより社会的な価値観と行動様式が変わろうとしています。またそれを技術が支えています。

そして、その技術の進歩の方向性は、コロナ禍を境として「時間」だけでなく「場」を変化させる方向に大きく変わろうとしています。その技術によって場と時間の構造変革が生まれ、その結果、都市や産業や経済、すなわち社会を大きく変えていっているのがコロナ禍の本質なのです。