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生成AIの光と影 (第1回) 働く場の再発明──AI・フィジカルAI・リモートが書き換える “会社” の未来

生成AIの光と影 (第1回) 働く場の再発明──AI・フィジカルAI・リモートが書き換える “会社” の未来

私たちはコロナ禍を経て、「働く場所」や「会社のあり方」を見直す局面に立たされました。
リモート技術の急速な普及によって、必ずしも職場に集まらなくても仕事が成立する。そんな実感を、多くの人が得たはずです。

一方で、生成AIの登場は、単なる働き方の選択肢を増やすにとどまらず、これまで前提としてきた仕事の構造そのものを揺さぶり始めています。
AIは現場を進化させる大きな可能性を秘める一方、導入の考え方を誤れば、組織や仕事をかえって混乱させるリスクもはらんでいます。

本連載では、社会文化研究家・池永寛明氏が、生成AI・フィジカルAI・リモート技術が重なり合うこれからの時代に、私たちは「働く場」とどう向き合うべきなのかを、全3回にわたって紐解いていきます。

第1回では、コロナ後の社会状況を俯瞰しながら、働く場所が「物理空間・管理空間・デジタル空間」という三層構造で成り立ちつつあることを整理し、「場」とは何かを根本から問い直します。
AIを活用しながら働き方や現場を再設計していくために、何を優先するべきなのか。
本稿が、その思考の起点となれば幸いです。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB(https://ikenagalab.com)代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など

はじめに

2020年、私たちは否応なく“働く場所を問い直す時代”に投げ込まれた。
コロナ禍でオフィスは空になり、会議室は消え、テレワークが標準になった。
働くとは「出社すること」ではなく、「価値を生み出す行為」であることを、強制的に思い出させられた。

だが、コロナが明けた後、多くの会社が元の状態に戻ろうとしている。
オフィスへの出社を求め、従来の働き方を呼び戻そうとしている。

しかし、元の世界にはもう戻れない。

理由は明確である。
AI、フィジカルAI(AI×ロボット)、リモートメンテナンス・リモートマネジメント。
この3つの技術が、“働く場の構造” を書き換えはじめたからである。

この3つが揃ったとき、
「会社・事務所・工場」という区分は、もはや現実を説明しきれない。

会社とは何か?
オフィスとは何か?
現場とは何か?
チームとは何か?
人が働くとは何か?

その根本が問われている。

本稿では、
「働く場の再発明」 という視点から
AIがもたらす分岐点を見つめたい。

第1章 コロナが露呈させた「働く場の脆さ」

2020年3月、多くの企業は初めて知った。

オフィスは仕事の必需品ではない。
“そう思い込んでいただけ” だということを。

オンライン会議は驚くほど機能した。
決裁も会議も急に速くなり、移動はゼロになり、生産性はむしろ上がった。

ではなぜ、コロナ後に「出社回帰」が起こっているのか?

それは、
“場所に紐づいた仕事” が、企業側にまだ残っていたからかもしれない

・紙の承認
・押印
・口頭での調整
・属人化した情報
・現場でないとわからない暗黙知
・対話の空気からしか拾えないシグナル

これらは「オンラインでは拾えない領域」であり、
そこにこそ“仕事の核心”があった。

すると私たちは気づく。

テレワークと出社の二択ではなく、
仕事そのものが “二層構造” に分かれ始めていることを。

第2章 生成AIが生んだ「個人ワークの無重力化」

生成AIは、働く場の概念を根底から変えた。
とくに、個人ワークの意味を大きく変えてしまった

従来、ホワイトカラーの価値は
「情報を集める力」「文章化する力」「資料をつくる力」「構造化する力」
などだった。

しかしChatGPTなど生成AIが登場し、
“情報収集 → 解析 → 編集 → 文書化” が10~30倍の速度になった

これは場所に依存しない。
自宅でも、サテライトでも、工場の一角、カフェでもできる。

つまり、

・個人で完結するタスクは「どこでもできる仕事」になった

・ 会社でなくても、AIとスマホとPCがあれば同じ品質が出せる

・ 若手がベテランを圧倒する「スキル逆転」が起きている

実際、研修現場でも顕著だ。
・部長・課長クラスの生成AI活用より
・入社2〜3年目のAI活用のほうが
圧倒的に質が高い。

その差は、“技術ではなく姿勢” にある。

若手は最初から
「AIと協働する」ことを前提に発想する。
ベテランは
「自分の仕事の経験・延長線でAIを使おう」とする。もしくは「AIを使わない」

この差が圧倒的なアウトプット格差を生みだしている。

そして企業の多くは、本当は気づきはじめている。

「個人の仕事の大半はAIで置き換わる」
という事実から逃げられないことを。

これは、働く場所に大きな影響を与える。

第3章 フィジカルAIが「工場・現場」を再設計する

世界では、AIとロボットが融合した “フィジカルAI” が急速に広がっている。

・自走点検ロボット
・AI搭載ドローン点検
・ロボットアームの自律最適化
・変化点検知AI
・搬送ロボット × 画像認識AI
・危険区域のAI遠隔監視

従来のロボットは、
“決められた動きをする機械” だった。

しかしフィジカルAIは違う。

・ 状況を理解し

・ 自律的に適応し
・ 人間と協働し
・ 現場そのものを変えていく

これが世界標準になりつつある。

ところが、日本に来たエヌビディア幹部は言う。

「日本は、もはやロボット大国ではない」

理由は明確だ。

・AI統合が進んでいない
・ソフトウェア人材が不足している
・ハード中心で“現場のOS”を書き換えていない
・ロボット導入が“部分最適”に留まっている
つまり、日本は
ロボットを “入れる国” であって、
ロボットで “現場を作り直す国” ではない。

この差が、10年後に大きな生産性格差として現れる。

そしてフィジカルAIは、
働く場そのものを再設計し始める。

第4章 リモートメンテナンス・リモートマネジメントが「現場」を再発明する

遠隔化、つまりその場にいないことを「手抜き」と捉える人がいる。
しかし、それは昭和の働き方の名残である。日本はこの遠隔化が恐ろしく苦手

リモート運転、リモート監視、リモート点検、リモートマネジメント。
これらは、単に現場に行かないための手段ではない。

本質は、“働く空間の再構築” である。

移動がなくなる。
夜勤負荷が減る。
24時間の管理が可能になる。
若手が現場を離れずに育つ。
女性・シニア・外国人が参入できる。
地方から都市圏の現場を支援できる。

ここで重要なのは、
遠隔化によって “現場の定義” が変わるということ

「現場にいる=価値」ではない
「現場を動かす=価値」である

つまり、働く場は三層に分かれる

●第1層:現場そのもの(物理空間)

●第2層:遠隔で現場を動かす中枢(管理空間)

●第3層:AIが大量の情報を統合するデジタル空間

これが一体となり、
初めて“未来のファシリティマネジメント”が成立する。

これこそ、
AI・フィジカルAI・リモートが融合した世界観である。

第5章 会社とは何か?ファシリティとは何か?の問い直し

AIが登場して初めて浮かび上がる問いがある。

会社とは、そもそも何のために存在するのか?

かつて会社は、
・情報が集まり
・人が集まり
・意思決定が行われる場所
だった

しかしAIは、
「集めること」「整理すること」「まとめること」を
人間より速く行う。

すると会社は
“人が価値を掛け合わせる場所” に役割が縮小する

逆に言えば、
会社が提供すべき価値は、「場の編集」へ移る

・人と人をどうまじわらせるか
・現場と本社をどうつなぐか
・AIと人をどう協働させるか
・情報の流れをどうデザインするか
・遠隔と現地をどう同期させるか(シンクロニシティ)

ここに未来のファシリティ価値が生まれる。

ファシリティとは、
机と椅子と設備を並べることではなく、

✔ 組織の構造を支え

✔ 働く流れを支え
✔ 現場の知恵を最大化する
“インフラOS” である。

そのOSの再構築が、
いま強く求められている。

第6章 技術は「導入」ではなく「前提を変える」

多くの企業が

人がいないから→
「AIを入れよう」「ロボットを入れよう」
と考える。

しかしこの思考法は正しいのか?

技術導入とは、
“仕事の前提を変える” という決断

・目的
・役割
・責任
・判断
・動線
・標準化
・リスク設計

これらを作り直さずに
AIだけ入れても何も変わらない。

むしろ複雑になり、生産性が落ちる。

必要なのは
● 技術 → 業務の改善
ではなく
● 業務の再設計 → 技術の適用
という逆順の発想

世界はすでにこの順番で動いている

第7章 未来の働く場はこうなる(予測)

では、未来の働く場はどう変わるのか?

ここでは5つの変化を示したい。

① 個人ワークの多くは「どこでも働ける」

個人のAI処理能力が上がるため、
場所は重要ではなくなる。

② チームワークは “場の質” がすべてになる

対話、合意形成、アイデアのぶつかり合い。
AIでは代替できない。

③ 工場・現場はフィジカルAI前提で再設計される

動線、監視、点検、安全、教育。
すべてがAIとロボット前提で組み直される。

④ 遠隔中枢が「現場の神経系」になる

リモート管理センターが
複数現場を同時に動かす時代が来る。

⑤ 会社の価値は「場の編集力」になる

空間づくりではなく、
関係のデザインこそ、会社の競争力になる。

おわりに

AIは仕事を奪うと言われる。
しかし、それは本質ではない。

AIは、
“仕事のやり方” と “働く場の意味” を問い直す装置である

昭和の働き方は終わりにしないといけない
今は、働き方を創り直す時代である。

だから企業には、
「働く場のOSを再設計する」という大仕事が待っている

そのとき必要なのは
技術への理解以上に
人と組織と場をつなぎなおす力である。

次号に続く