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万博後の風景(前編)ー技術が描いた未来と生成AIが開いた現実

万博後の風景(前編)ー技術が描いた未来と生成AIが開いた現実

画像提供:2025年日本国際博覧会協会

 

2025年4月より開催された大阪・関西万博は様々な印象・刺激を残して閉幕が近づきつつあります。
多くの国から「未来」を感じさせる「モノ」「コト」が集められた博覧会は、連日報道でも取り上げられ、今現在から続く未来への変化を想像させる場であったと言えます。
しかしその一方で、社会や企業の現場は、必ずしもその未来の実現に向けて着実に歩を進めているとは言えません。

万博会場の中では、未来を感じさせるテクノロジーが披露されていますが、それを目にする人にとって、まだ実生活から遠いものでもありました。

本連載では、社会文化研究家・池永寛明氏に前後編に分けてお話を伺いました。
万博の見せる未来と、日々変化していく現実から万博後の風景をどう生きるのかを探ります。

未来は予測するだけのものではなく、自らつくり続けるもの。
本記事を通じて、みなさまが次の一歩を考えるきっかけとなれば幸いです。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など

1 万博は「未来社会のショーケース」だった― 驚きと同時に問いを投げかけた場

2025年大阪・関西万博
テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」

会場に入ると、そこは未来社会そのものだった

  • ロボットが来場者を迎え、無人走行のモビリティが会場を静かに巡る
  • 遠隔操作のアバターを介して、海外の仲間とリアルタイムで交流する
  • AIが人の流れや電力消費を即座に最適化し、建物間でエネルギーを融通する
  • パビリオンでは、自分の将来の姿をAIがシミュレーション、人とロボットが共存する暮らしを体験できる
  • 仮想現実では、ソファに座ったまま世界を旅し、かかりつけの「マイドクター」に診てもらえる

「すごい!」「未来はもうここまで来ているのか!」
子どもたちは目を輝かせ、大人たちは胸を高鳴らせていました

未来の断片を“今ここ”で体験するワクワク感
それこそが万博の最大の魅力だった

しかし同時に、会場には静かな疑問も漂っていた
この技術は、私たちの社会を、暮らしを本当に良くするのだろうか?
人はどう変わるのか? 会社や働き方はどうなるのか?

万博は「楽しいお祭り」であると同時に、「未来を考える実験場」でもあった

2 コロナ禍が未来を「前倒し」した― 未来社会の試運転は強制的に始まった

すでに私たちは忘れかけている―2020年、世界は新型コロナウイルスに揺れたことに。

  • 出社制限。移動制限。人と人の接触の制限。
  • 企業も大学も病院も、すべてが「オンライン」で繋がることを余儀なくされた

ZoomやTeamsは日常化し、授業は自宅から受け、医師は遠隔で診察
オフィスは空っぽになり、自宅が仕事場となっている
商談はオンラインで成立し、営業や販売のあり方そのものが変わった

万博で「未来に実現する」と思われていた世界は、コロナ禍によって強制的に“現在化”されていた

過去から積み重ねられてきたオンライン・リモート技術が、社会全体で一気に試運転された。
コロナ禍の不自由さの中に、未来社会の種が潜んでいた

現在には過去が埋めこまれている。そして未来の種も埋めこまれている。
コロナ禍はそのことを痛烈に教えてくれた

3 生成AIが社会を揺さぶった― 「便利」で済まない衝撃

そして2024年以降、ChatGPTを代表とする生成AIが本格的に登場した

  • 社内の企画書や稟議書をAIがつくる
  • 建築や機械の設計図のたたき台をAIが描く
  • マーケティングコピーや社内文書をAIが整える
  • 大学の授業資料や論文作成、査読までAIが担う
  • 朝も昼も晩も時間が空いたら、悩みや困ったことをAIが真摯に聞いてくれる、答えてくれる

さらにAIを内蔵したロボットが、工場や物流の現場で自律的に判断し、自由自在に行動するようになった

これは単なる便利ツールではない
“人間の仕事の根幹”にAIが入り込み始めているということ

会社や工場から人は消えるのか?
今している仕事はなくなるのか?
大学に行く意味はあるのか?

万博で「未来の技術」として展示されていたものが、現実の社会を根底から揺るがしている。
これが「生成AIが開いた現実」である

4 技術が問うのではなく、人が問われている― 技術ではなく、人の選択が未来を決める

2030年に向けて、社会実装はさらに進む

  • 会社:組織は小規模化し、AIと人が協働する自律型チームへ
  • 工場:ロボットが主体となり、人間は制御や創造の領域に専念
  • 学校:知識習得はAIが支援、人間は「問いを立てる力」を育む場に
  • 病院:AI診断とロボット手術が当たり前、人間はケアや共感に集中
  • 都市・地域:データで最適化された都市と、Well-Beingを軸にした30分圏の地域社会が共存

未来は確かに技術で形づくられる
だが本当に問われているのは、人間の側である

技術が何を変えるかではなく、人・会社・社会が何を求めるのか?
衣・食・住・職・遊・学――人は何をしたいのか? 何を得たいのか?
未来を生き抜く鍵は、最新技術を追いかけることだけではなく、人々の気持ち=インサイトを掴む力。そこに未来の種が埋めこまれている

5 企業人へのメッセージ 「インサイト力の時代」― 技術をどう翻訳し、どう共創するか

これからの企業人に必要なのは三つの力

1. インサイト力
市場や顧客、生活者が「本当に求めていること」を掴む力
2. 翻訳力
先端技術を社会的価値に翻訳し、事業やサービスに落とし込む力
3. 共創力
AIと人、会社と社会をつなぎ、新しい価値を創り出す力

技術は目的ではなく手段である
万博で「すごい!」と驚かれた技術は、今すでに私たちの現実になっている

次に問われるのは、その技術をどう使い、人と社会のWell-Beingをどう実現するのか。
未来を決めるのは技術そのものではなく、それをどう生かすかという人間の選択

後編につづく