
万博後の風景(後編)ー人口動態とファシリティが変える社会のかたち
画像提供:2025年日本国際博覧会協会
2025年大阪・関西万博は様々な印象・刺激を残して昨日閉幕しました。
前編では、2025年大阪・関西万博の見せた未来と、人・会社・社会がこの先に何を求めるのか?を、人の選択が決定する事を交え、社会文化研究家・池永寛明氏にお話を伺いました。
今回の「後編」 では、人口動態とファシリティが変える社会のかたちを描き、縮退社会を迎えた現在社会が抱えるテーマと、価値観とファシリティの変化・進化の先でどう生き抜くのかを探ります。
未来は予測するだけのものではなく、自らつくり続けるもの。
本記事を通じて、みなさまが次の一歩を考えるきっかけとなれば幸いです。
目次
プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)
(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959)
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など
1 人口動態の変化は「未来の種」だった― 減り続ける日本の人口が示すもの
日本の人口は減り続けている。
国立社会保障・人口問題研究所によれば、2020年の1億2,600万人は、2050年には1億人を割り込む。出生率は1.2台、平均寿命は延び、高齢化率は40%近くに達する見通しである
これは単なる統計の話ではない。私たちの日常に直結している
- 地方大学の定員割れ率は50%を超え、キャンパスの統廃合が進んでいる
- 郊外のニュータウンでは、団塊世代の高齢化に伴い商店街がシャッター通り化
- 東京一極集中は止まらず、全国の市町村の半数近くが「人口減少地域」に指定されている
突然起きたわけではない
すでに30年前から予測されていた未来が、今、現実になっただけ
現在には過去が埋めこまれている。そして未来の種も埋めこまれている。
人口動態の変化は、その最も分かりやすい象徴である
2 生産性・創造性・Well-Being― 縮退社会をどう生き抜くか
人口が減る社会(縮退社会)では、「今まで通り」では立ち行かない
- DXやAIで生産性を高め、省人化を進める。工場や倉庫では自動搬送ロボット、大学の事務はAIが履修管理を代替
- 余剰リソースを新しい価値の創造に振り向ける。研究開発や地域連携、Well-Beingを実現する仕組みづくりへ
- 目指すのは効率ではなく、「佳く生きる」ための社会
かつて会社は「数字を積み上げる場」だった
これからは「人が自分らしく働きながら成果を生み出す場」に変わる
社会も「成長のための社会」から、「佳く生きるための社会」へ
生産性と創造性とWell-Being。三つをどうバランスさせるか
それが縮退社会の最大のテーマ
3 価値観の変化が人の流れを変える― 会社主義から自分主義へ
人口減少と並行して、人々の価値観が大きくシフトしている
- 働き方:フル出社からハイブリッドへ。オフィスは「行く場所」から「使い分ける場」に変わろうとしている
- 学び方:知識暗記から「問いを立てる・共に考える」へ。社会人大学院やリカレント教育が拡がりつつある
- 暮らし方:都市一極集中から、郊外・地方への分散。二拠点居住やワーケーションが当たり前になりつつある
- 遊び方:モノ消費よりも体験・健康・つながり重視。モールにジムや学びの場が併設されるのはその表れ
価値観の変化は、人の流れを変える
都市は「人と人の交流のハブ」として再定義され、郊外や地域は「Well-Being創造拠点」として価値を高めている
あなたはどうですか?
会社に縛られて働くのか、自分の生き方に合わせて働くのか?
暮らしの拠点は都市か、郊外か、地域か?
4 ファシリティの進化( 大学・オフィス・商業施設)― 空間からプラットフォームへ
人口動態と価値観の変化は、建物や街区の姿を根本から変えつつある
・大学
かつて大学は知識伝達の場だった。今は、市民・学生・研究者が交わる「共創拠点」へ。
地方大学では社会人や地域事業者を巻き込み、地域イノベーションの場に生まれ変わるケースが増えている
・オフィス・工場
作業場から「関係資本を育む場」へ。
都心のオフィスは縮小する一方で、交流ラウンジやプロジェクトベースの空間が拡大している
工場もAIとロボットがオペレーションを担い、人間は開発・改善・創造に専念するようになっている
・ショッピングセンター
物販中心から「体験とコミュニティの拠点」へ。
本屋の代わりに学びのスペース、フードコートの代わりにシェアキッチン、健康や子育て相談の窓口まで。
「買い物する場所」から「過ごす場所」へ変化している。
ファシリティはもはや単なる「箱」ではない。
人と社会をつなぐプラットフォームへと進化しているのです。
5 万博後の風景をどう生きるか― 技術ではなく人が問われている
万博は「未来のショーケース」だった。
しかし現実は、人口減少と生成AIの進展によって、想定以上のスピードと深度で変化しています。
今問われているのは、技術が何を変えるかではなく、人・会社・社会が何を求めるのか、だ
- 大学は、誰のために何を提供する場なのか?
- オフィスは、人が集う意味をどう再定義するのか?
- 商業施設は、地域にどんな価値を生み出すのか?
未来は予測するものではなく、つくるもの
そして未来の種は、すでに今、私たちの現在に埋めこまれている
あなたの会社は? あなたの街は? あなた自身は?
万博後の風景を、どう生きますか?
以 上
