特集

カテゴリを選択

人手不足ー【第2部】昭和の仕事からの訣別― 創(ソウ)の精神で“ゼロベース”に仕事を創り直す

人手不足ー【第2部】昭和の仕事からの訣別― 創(ソウ)の精神で“ゼロベース”に仕事を創り直す

第1部で明らかになったのは、
日本企業がいまだに「昭和の仕事」から抜け出せていないという現実です。
採用強化やDX導入よりも前に求められるのは、
仕事そのものをゼロから捉え直す “創(ソウ)”の精神にあります。

第2部では、意味を失った慣習や前例に縛られた仕事を解体し、
企業が未来へ向けて仕事の構造を創り直す方法を示します。
痛みを伴う変革こそ、再生の始まりです。

社会文化研究家・池永寛明氏が語る、
仕事を“創”の刃で切り拓くための思考と実践。
みなさまの組織に変革の火を灯す一助となれば幸いです。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など

日本企業がいま直面している最大の課題は
人手不足でも、DXの遅れでも、AI導入の遅れでもない。
「昭和の仕事」から脱却できていないことである

「昭和の仕事」と聞くと
紙とハンコ、調整、根性論、長時間労働、電話文化、接待文化
そんな姿が浮かぶかもしれない。

しかし本質はもっと深い

昭和の仕事とは

「過去の成功体験が“パターン”として固定化し、
その文脈や前提が変わっても、仕事の形式だけが残ってしまった状態」
のことである

形式はそのままだが、意味は消えている。
手順はそのままだが、目的は消えている。
やり方はつづいているが、なぜその仕事が存在するのかを、誰も説明できない。
そして、日本の多くの企業は
その“意味が違った”仕事を
いまもつづけている

第1章 「創(ソウ)」という漢字が示す“改革の痛み”

まず、この第2部の核となる
「創(ソウ)」という漢字の本質を押さておさえおきたい

創という字は
刂(りっとう)=刃物を意味する
鋭い刃で古いものを切り裂き
新しいものをつくり出す

ここには3つの段階がある

① 創傷(そうしょう)
創とは鋭利な刃で裂かれた「傷」の表面を指す。
切り裂かれなければ新しいものは始まらない。

② 絆創膏(ばんそうこう)
傷をふさぎ、回復に向かうプロセス。
失敗と修復がセットになっていることを示す。

③ 満身創痍(まんしんそうい)
身体中が創だらけ。
何度も切り裂かれ、痛みを受け止めながら前に進んでいる状態。

つまり

“創る”とは、痛みを避けて通れない行為である。
古いものを壊さずに、新しいものをつくることはできない。

ここに、
昭和の仕事から訣別するための重要な示唆がある

第2章 いま企業に必要なのは「創」の精神

痛みを引き受け、仕事をゼロベースで解体すること 。

多くの企業が
「DXを導入したり、AIを使えば効率化できるはず」
「ロボットを導入すれば省人化になるはず」
と考える。

しかし、それは“付け足し”でしかない。

もっと根本に立ち返らなければならない。

●なぜ、その仕事は存在するのか?
●誰に、どんな価値を届けるためか?
●その手順は、本当に必要なのか?
●そのチェックは、何のためにあるのか?
●このプロセスは、お客さま価値に結びつくのか?

これらを問わないまま
DXやAIやロボットを導入する企業が多い。

結果として起きるのが

「昭和の仕事 × 令和のテクノロジー」 で、 業務がさらにぐじゃぐじゃになる

という現象

• 人間用に設計されたフローのまま機械を入れる
• 属人化された仕事をそのままAIで自動化しようとする
• 現場の動線を変えずにロボットを入れる
• 意味のない報告書をAIで高速生成する

これで良い結果が出るはずがない

第3章 「今の仕事 × AI」という誤算はなぜ起きるのか?

日本の企業文化には
対処療法、“足し算の発想”が強く残っている

• 仕事が増えた → 人を増やす
• 仕事が複雑 → 会議を増やす
• ミスが出た → チェックを増やす
• DXする → 新しいシステムを“追加”する
• 店舗を改善 → 設備を“足す”

しかし、必要なのは足し算ではない

必要なのは「引き算」と「掛け算」である

① まずムダを削る(引き算)

• やめるべき仕事
• 無意味な手順
• お客さまに価値を生まないプロセス
• 二重三重のチェック
• 形骸化した会議
• 作ることが目的化した報告書

これらをまず削る

② 次に、「人 × 技術・機械」を掛け合わせる

• 人がやるべき仕事はなにか
• AIがやるべき仕事はなにか
• ロボットが担うべき仕事はなにか
• リモート化するべき仕事はないか
• 標準化すべき領域はないか
• 創造性を発揮する領域はどこか

これらをゼロベースで考えることが必要

第4章 日本は「箱をつくる」文化・世界は「箱をどう使うかを考える」文化

日本の仕事のつくり方には
もう一つの構造的弱点がある
日本:どんな箱(仕組み)をつくるか?
世界:その箱をどう使うか?どう育てるか?

日本は「つくる」ことに集中し
つくった瞬間に“終わり”になる

しかし世界では
箱をつくってからが“スタート”である

箱を育て、磨き、改善し
使う人の変化や時代の変化に合わせて
構造を更新していく

日本はここが圧倒的に弱い。
そこに昭和の仕事の影響が濃厚に残っている

第5章 「創るための痛み」を引き受けない限り、仕事は変わらない

昭和の仕事は、「成功体験の化石」である

日本企業はかつて世界を席巻した
その成功体験が「正しさ」として企業文化に染み込み
前提が変わっても手法だけが残った

成功体験の呪縛である

だからこそ
仕事をゼロベースでつくり直そうとするとき
必ず痛みが生じる

●役割が変わる
●権限が変わる
●標準が変わる
●仕事の意味が変わる
●組織の力関係が変わる
●慣習が否定される

これを避けて通ることはできない

だが、これこそが「創」である

第6章 いま必要なのは、「創」を恐れず、未来の仕事をつくり直す覚悟

DX、生成AI、ロボット、メタバース、リモート化
新しい技術は次々に登場する

しかし、技術は仕事を救わない

救うのは
仕事の再定義と再設計である

そのためには
痛みを恐れず、創の刃を入れるしかない

• 仕事の目的を問い直す
• プロセスを解体する
• 人と技術の役割を分ける
• 標準を刷新する
• 顧客価値を軸に再構築する

これをやりきった企業だけが
人手不足の時代を乗り越えられる

第2部のまとめ

創とは、痛みを引き受けて仕事を再創造すること。
昭和の成功体験に別れを告げ
未来にふさわしい仕事をゼロベースでつくり直すことが
人手不足時代の処方箋

次号につづく