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生成AIの光と影 (第2回) あなたの仕事の価値はなんですか?──生成AIで人と組織の「再定義」が始まった

生成AIの光と影 (第2回) あなたの仕事の価値はなんですか?──生成AIで人と組織の「再定義」が始まった

生成AIの登場によって、私たちはこれまで当たり前だと思ってきた「仕事の価値」や「人の役割」を、改めて問われる時代に入りました。

情報を集め、整理し、文章や資料にまとめる。
かつて人の能力そのものとされてきた領域に、AIが深く入り込み始めた今、個人も組織も「何を担う存在なのか」が曖昧になりつつあります。

第2回では、こうした変化を背景に、『働く意味の再定義』というテーマを軸に、生成AIがもたらす人と組織の構造変化を掘り下げていきます。
AIの進化は、単に効率化を進めるのではなく、これまで人が介在してきた社会の前提そのものを浮かび上がらせています。

仕事の価値はどこにあるのか?
組織に属する意味とは何か?
チームや場は、何のために存在するのか?

本稿を通じて、日々の仕事やご自身の立ち位置を少し立ち止まって見つめ直すきっかけを得ていただければ幸いです。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB(https://ikenagalab.com)代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など

はじめに

AIは“仕事を速くする道具”だけではない。
AIの本質は“人の働き方そのものを問い直す鏡”である。

2023年に本格的に登場した生成AIは
・情報収集
・構造化
・編集
・文章生成
・要約
・解釈

など、私たちが長年「人間でなければできない」と思ってきた領域を、次々と置き換え始めた。

すると、突然、根源的な問いがでてきた。

「あなたの仕事の価値は、どこにあるのか?」

この問いに、あなたはどう答えるだろうか?

本稿では、生成AIがもたらす
“働く意味の再定義” をテーマに深く掘り下げたい。

その変化は、
・個人
・チーム
・組織
・ファシリティ
すべてに波及する。

第1章 生成AIが起こした「スキル逆転」

まず、現場で何が起こっているのか。

研修の場に行くと、驚く光景に出会った

同じ課題を与えて、グループ討議をしたら
入社2〜3年目の若手のAI活用アウトプットのほうが
部長・課長層より圧倒的に質が高かった

理由は3つある。

① 若手は「AIを出発点」で考える

若手は
「AIができることはAIに任せ、自分は“人の領域”をやる」
という姿勢で仕事を進める。
つまり、AIと人の役割分担を自然に行う

② ベテランは「自分の延長線」でAIを扱う

AIを“便利な機能”だとは思っても、
自分の仕事の流れを変えない。

結果として、
発想もアウトプットも、AI以前の世界に固定される

③ 思考ではなく「編集力」の時代になった

生成AIは
・情報の収集
・構造化
・編集
・再構成
が圧倒的に得意である。

つまり、
個人の“情報処理力”は、AIと連携できるかどうかで決まる時代に入った

これは単なるスキルの違いではない。

価値の源泉が“思考”から“編集”へ移った。

ここに、働く意味の再定義の第一歩がある。

第2章 個人ワークの“無重力化”が組織を揺さぶる

生成AIは、働く場所を自由にしただけではない。

働く「個人」そのものを自由にしてしまった。

・資料作成はAI補助で1/10の時間
・文章はAIが綺麗につくってくれる
・分析はAIが膨大なデータをまとめてくれる
・企画書の枠組みはAIが提示してくれる

すると、
個人の仕事が「どこででも、できる領域」となった

これは、企業組織にとっては大きな衝撃である。

■なぜなら、企業のホワイトカラーの多くの仕事は

「個人の処理能力」に依存して設計されているからだ。

承認フロー、決裁、会議、チェック、議事録・報告書・週報・月報など資料作成。
日本企業は“人が処理する前提”で、仕事を積み上げてきた。

しかし、AIが個人処理能力を10~30倍にしてしまうと
既存の業務設計そのものが崩壊する

つまり、

AIの強み・弱みを理解して、本格的に導入すると、「仕事そのものを作り直さざるを得ない」

ここがAIによる会社および仕事への影響の本質であり、
AIの光であり、影である。

第3章 チームの価値は「同時性(シンクロニシティ)」へ移る

個人が自由になったとき、
チームには何が残るのか?

それは、
“同時に価値が生まれる瞬間” である

AIは文章をつくる。
AIは資料をまとめる。
AIは過去の情報を統合する。

しかしAIにはできないものがある。それはなにか?

「リアルタイムで人と交わること」

・対話
・衝突
・共感
・葛藤
・合意形成
・気配の読み取り
・曖昧さを許容する力

これらはAIでは代替できない

つまり
チームに残る本質的価値は、「シンクロニシティ=同時性の力」になる

そして、この同時性を支えるのが
ファシリティの役割そのもの である

・どんな場所で
・どんな組み合わせで
・どんな対話を生み
・どんなぶつかり合いを誘発し
・どんな意思決定を編集するか

これこそが、
未来のファシリティマネジメントの中核 になる。

第4章 会社は「ナレッジを学習させる装置」に変わる

生成AI最大の強みは、“学習する”ことで

会社はこれまで、
・個人が持つ経験
・暗黙知
・現場の気づき
・顧客の声
・内部資料

などを集めることはできても、「活かす」ことが十分ではなかった

しかし生成AIは違う。

✔ ナレッジをAIに学習させ

✔ 必要な瞬間に
✔ 必要な文脈で
✔ 必要な形で
呼び出すことができる。

つまり、

社員一人ひとりが「会社全体の知恵」を使える時代が来た

すると会社の役割が変わる。

会社=「ナレッジを学習させ、再編集する場」

・現場での観察メモ
・点検・修理の記録
・営業の気づき
・トラブルの対応の流れ
・ベテランの目利き
・設備利用の創意工夫
・お客さまの微妙な反応

これらがAIの学習対象になる。

これは何を意味するか?

・ 個人の差が縮まり、組織の標準値が上がる

・会社の知性が“分散”から“集中”へ変わる

・人とAIの協働によって、現場力が底上げされる

これは、会社・工場・現場すべてに影響を与える。

第5章 しかし、AIには「偏差値40〜59の壁」がある

AIには限界もある。

生成AIが出す情報のほとんどは
偏差値40〜59の“平均的な答え”である

平均より大きく外れた
・創造
・洞察
・異能
・突破力

は、AIからは生まれない。

では、AIしか知らない人はどうなるのか?

・AIが作る平均値の世界で育ち

・AIが作る標準的アウトプットしか知らず
・AIが作る平均の思考様式に慣れ
・AIの限界を越える訓練をしないまま

社会に出てくる。

これが意味するものは大きい。

■ 平均以下の会社は平均に上がる

■ 平均以上の会社は平均に下がる

つまり、
企業間の差が“縮む”方向に働く

では、どうなるのか?会社はどうやって他社との差を生みだすのか?

ここに、大きな組織課題がある。

第6章 未来の競争力は「問い・対話・物語」に宿る

AI時代、“考える力”の意味が変わる。

必要なのは
・早く調べる力
・速く作る力
ではなく、

■「何を問うか?」

■「どう意味づけるか?」

■「どう物語として描きなおすか?」

である。

AIは答えをつくってくれる。
しかし、問いはつくれない。

問いをつくるのは人。

会社がAI時代に強くなるためには、
問いを立てられる人材をどう育てるか が鍵になる。

このとき、
ファシリティは単なる空間管理ではなく、

✔ 対話が生まれる場

✔ 意味づけが育つ場

✔ 想像力が跳ねる場

✔ 現場と本社が同期する場

をつくる役割へとアップデートされる。

第7章 「人はどこで働くのか?」の再定義

AIによって働く場所は、三層に再編される。

第1層:デジタル空間

AIが情報処理・編集の中枢になる場所。

第2層:リモート中枢

現場を遠隔で観察・管理し、意思決定する場所。

第3層:物理空間(リアル・現場)

AIと人が協働し、価値を生む場所。

これは
会社・工場・事務所という境界線が溶ける ことを意味する。

働くとは
「どこにいるか」ではなく
「どの層で価値をつくるか」という概念に変わる。

おわりに

AIは道具ではない。
AIは“問い直しの装置”である。なにを問い直すべきなのか?

・仕事とは何か
・会社とは何か
・人の価値とは何か
・現場とは何か
・組織とは何か
・学びとは何か

これらすべてが
AIの登場によって揺れ動きはじめた

 

(次号に続く)