
BCP2026 ― 【第2部】構造リスク論としての「BCP2026」 リスクは、災害ではなく構造に宿る
災害が起きたとき、なぜ復旧は遅れ、影響は想定以上に広がってしまうのか。
その問いは、個別の災害対応や現場判断だけでは十分に説明できなくなっています。
人口減少、産業の高度化、都市と地方の変化、社会関係の希薄化、そして技術依存の深化。
私たちが「前提」としてきた社会や企業の構造は、この30年で静かに、しかし大きく変わりました。
第2部では、こうした変化を一つひとつ追いながら、
現代のリスクがなぜ、連鎖しやすく、長期化し、元に戻りにくいものへと変質したのかを
「構造リスク」という視点から整理していきます。
災害の大きさではなく、社会と企業の成り立ちそのものに目を向けること。
それが、BCPを次の段階へ進めるための視座となります。
プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)
(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959)
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB(https://ikenagalab.com)代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など
なぜ復旧は長期化し、影響は拡大するのか
第1部では、
BCPが「あるのに動けない」理由が、
災害対策の不備ではなく、経営と組織の前提構造そのものにあることを確認した。
第2部では、
その前提構造が、この30年でどのように変質し、
なぜ現在の企業と社会において
「復旧しにくい」「影響が長引く」リスクが常態化したのかを、
構造の視点から掘り下げていく。
問題意識の起点
なぜ、最近の災害ほど「立ち上がれない」のか
ここ数年、災害や大規模トラブルの現場から、共通した声が聞こえてくる。
• 被害規模そのものより、復旧が異常に遅い
• 一部の停止が、全体停止へと連鎖する
• 復旧したように見えても、元に戻らない
この違和感は、単なる印象ではない。
阪神・淡路大震災、東日本大震災の時代と比べても、
「復旧に要する時間」は明らかに長期化し、
「影響の波及範囲」は拡大している。
その理由を、
「災害が激甚化したから」
「想定外が増えたから」
だけで説明するのは不十分である。
本質的な変化は、
災害の側ではなく、社会と企業の構造の側にある。
人口構造の変化
人が減るとは、「余白が消える」ことである
最初に向き合うべきは、人口構造の変化である。
高齢化、人口減少、若年層の減少。
これらは、もはや将来の話ではなく、
すでに企業活動の前提条件そのものを変えている。
夜間や休日に人が集まらない。
災害時に現場へ駆けつけられる人が限られる。
経験者や判断できる人材が、すでに引退している、あるいは現場にいない。
重要なのは、
人口減少が意味するのは「人手不足」だけではない、という点である。
人口減少とは、組織から冗長性が消えることである。
かつては、
誰かが欠けても、別の誰かが補えた。
一人が倒れても、判断は別の人が引き継げた。
しかし現在はどうか。
一人が欠けた瞬間に、
• 判断が止まり
• 業務が止まり
• 連絡が途切れる
それでも多くのBCPは、
「代替要員が動く」
「誰かがカバーする」
という前提で設計されている。
ここに、最初の構造的な齟齬がある。
産業構造の変化
効率化は「理解主体」を奪った
次に、産業構造の変化である。
この30年、企業は一貫して、
高度化・専門化・外注化を進めてきた。
• 設備は高度になり
• 管理は専門会社に委ねられ
• 運用は分業化された
その結果、企業は高い効率性を獲得した。
しかし同時に、
自社の設備・エネルギー・施設を、
自分たちの言葉で説明できる主体
を失っていった。
設備はある。
非常用電源もある。
エネルギー供給も確保されている。
しかし、
• どの設備が、どの業務を支えているのか
• どこまで無理が利くのか
• 何を止めると、何が連鎖的に止まるのか
を、経営判断の文脈で語れる人がいない。
分業は効率を生んだ。
しかし同時に、全体を理解し、選び取る主体を消していった。
これが、有事における「判断不能」を生み出している。
都市・地方構造の変化

拠点があることは、安全を意味しない
都市と地方の構造変化も、
BCPの前提を大きく揺るがしている。
都市部は、
• 過密化
• 同時被災
• インフラ依存の集中
という脆弱性を抱えている。
一方、地方は、
• 担い手不足
• 協力企業の減少
• 行政機能の縮小
という別の脆弱性を抱えている。
かつては、
「地方拠点がバックアップになる」
「都市が復旧を牽引する」
という役割分担が成立していた。
しかし現在は、
都市も地方も、同時に脆い。
拠点が存在すること自体が、
もはや事業継続の担保にはならない。
社会構造の変化
「誰かが何とかする」は成立しない
社会構造も、大きく変わった。
核家族化、単身化が進み、
地域や職場における暗黙の「共助」は弱体化した。
企業内でも同様である。
• 上司が常に現場にいるとは限らない
• 同僚が同じ場所にいるとは限らない
• 判断を仰ぐ相手が、すぐにつかまるとは限らない
それでもBCPは、
「誰かが判断する」
「上位判断が降りてくる」
という前提で書かれている。
ここにも、現実との乖離がある。
技術構造の変化

情報化 → 電化 → 依存の深化
さらに、「技術構造」の変化が重なる。
情報化とDXは、業務を効率化した。
生成AIは、意思決定支援を高度化しつつある。
しかし同時に、
これらは電力と情報通信への依存度を極端に高めた。
• 電力が止まる
• 通信が途切れる
その瞬間、
高度化した組織ほど、急激に機能を失う。
これは技術の問題ではない。
技術を前提に、組織と経営を組み替えてきた結果である。
構造リスクという現実
人口、産業、都市、社会、技術。
これらの構造変化が重なった結果、
現代のリスクは、性質を変えた。
• 局所的ではなく、連鎖する
• 一時的ではなく、長期化する
• 復旧できるとは限らない
現代のリスクは、災害ではない。
構造そのものに内在している。
第2部の結論
だからこそ、BCP2026は
「想定を増やす」ことから始まらない。
必要なのは、
経営が前提としてきた構造を、問い直すことである。
どの構造に依存し、
どこに余白がなくなり、
どの判断が連鎖を生むのか。
それを理解しないままでは、
BCPは決して機能しない。
【次回第3部の予告】
第3部:BCP2026 ― 経営改革としての再設計
・企業OSとは何か
・設備・エネルギー・施設管理をどう経営に組み込むか
・「選び続ける経営」をどう構造化するか
