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BCP2026 ― 【第3部】経営改革としての再設計 ― 企業OSをどう組み替えるのか

BCP2026 ― 【第3部】経営改革としての再設計 ― 企業OSをどう組み替えるのか

構造が変わった時代において、
BCPは「非常時の対応策」としてだけ存在しているのでしょうか。

 

災害時の企業が適切に動けるかどうかは、その瞬間の判断力だけで決まるものではありません。
平時に、何を重視し、どこに裁量を持たせ、どの判断を誰に委ねてきたのか。
緊急の経営判断を行う時、それぞれの視点からの情報を、スムーズに経営判断と同じ言語へと翻訳する事が出来るか。
それらの積み重ねが、有事の動きやすさを左右します。

 

最終章となる第3部では、
BCP2026を「危機対応」ではなく「経営改革」として捉え直します。
設備・エネルギー・施設管理を単なるコストや裏方業務ではなく、
経営判断の中核としてどう位置づけ直すのか。

 

構造が変わった時代に、企業が在りつづけるための経営とは何か。
その手がかりを、BCP2026という視点から提示します。

プロフィール

池永寛明(いけながひろあき)
社会文化研究家(元 大阪ガスエネルギー・文化研究所所長、元 日本ガス協会企画部長)

(略歴)大阪ガス株式会社理事・エネルギー・文化研究所長・近畿圏部長・日本ガス協会企画部長
(現在)日本経済新聞note 日経COMEMO キーオピニオンリーダー(https://note.com/hiroaki_1959
関西国際大学客員教授・データビリティコンソーシアム事務局長・Well-Being部会会長・
堺屋太一研究室主席研究員・未来展望研究所長・IKENAGA LAB(https://ikenagalab.com)代表等
(著書) 「日本再起動」「上方生活文化堂」など

経営改革としての再設計 ― 企業OSをどう組み替えるのか

第1部では、
BCPが「あるのに動けない」理由が、
設備や訓練の不足ではなく、判断できない経営構造にあることを見てきた。

第2部では、
なぜその判断不能が、近年ますます深刻化しているのかを、
人口・産業・都市・社会・技術という構造変化から明らかにした。

この2つを踏まえたとき、
第3部で向き合うべき問いはひとつである。

では、経営として、何をどう変えるのか

BCP2026は「危機対応」ではなく、「経営改革」である

ここでまず、BCPに対する見方そのものを、明確に転換する必要がある。

BCP2026は、
非常時にだけ発動する「守りの施策」ではない。

企業OS――すなわち
日々の経営判断を支えている前提構造そのものを
組み替えるための経営改革論である。

これまで多くの企業において、BCPは
「万一のための別枠」
「本業とは切り離されたリスク対策」
として位置づけられてきた。

しかし、第1部・第2部で見てきたように、
有事に組織が止まる原因は、
平時の経営の中にすでに埋め込まれている。

• 誰が判断するのかが曖昧
• 現場に裁量がない
• 設備・エネルギーが経営の言葉で語られていない

この状態で、
「非常時用の計画」だけを整えても、
組織が動くことはない。

BCP2026とは、
非常時に耐える経営を、平時からつくり直すことにほかならない。

経営者に問われているのは「正解」ではない

ここで、経営者に突きつけられている問いは、極めて重い。

それは、
「正しい答えを用意できているか」
ではない。

どこを止め、
どこを残し、
誰に判断を委ねるのか。

この問いに向き合い、
選び続ける覚悟を持っているか
である。

南海トラフのような巨大災害では、
すべてを守ることはできない。

すべての設備を動かし続けることも、
すべての業務を同時に維持することも、
すべての拠点を等しく救うことも、現実的ではない。

それでも、
経営は選ばなければならない。

この選択を、
「その場の判断」
「個人の胆力」
に委ねてしまう組織は、必ず止まる。

BCP2026が目指すのは、
選択を個人に押しつけない経営構造である。

設備・エネルギーは「固定資産」ではない

BCP2026を経営改革として捉えるとき、
最初に見直すべきなのが、
設備とエネルギーの位置づけである。

従来、設備投資やエネルギー対策は、
「止めない」「壊さない」「守る」
ことを目的に設計されてきた。

しかし、人口減少・人材不足・広域同時被災の時代において、
すべてを守り切る前提は成立しない

重要なのは、

• どの設備が、どの業務を支えているのか
• どの設備は止めてもよいのか
• どこから再起動できるのか

を、経営が理解し、選べる構造を持っているかどうかである。

設備とは、
単なる固定資産ではない。

経営の可動域そのもの。

エネルギーも同様。

確保量の多寡ではない。

• どの業務を優先するのか
• どこで切り替えるのか
• どこまで絞れるのか

を、経営判断として設計できているかが問われる。

施設管理は「裏方」ではなく、「経営判断の要」である

ここで、施設管理の位置づけを根本から見直す必要がある。

施設管理は、
点検・保全・維持を担う裏方業務
そう捉えられてきた企業は少なくない。

しかし、BCP2026において、
施設管理はまったく異なる役割を担う。

• 今の設備状態で、何ができるのか
• どこまで無理が利くのか
• どの判断が、どのリスクを伴うのか

これを、
経営と同じ言語で翻訳できる存在がいなければ、
経営は選べない。

DXやAIは、
人を減らすための道具ではない。

判断の解像度を上げるための補助線である。

設備データ、エネルギー使用状況、保全履歴。
それらを「見える化」するだけでは不十分だ。

経営判断につながる形で“意味づける”こと。
それが、これからの施設管理に求められる役割である。

BCP2026がつくろうとしている企業像

BCP2026が目指しているのは、
「災害に強い企業」ではない。

人が減っても、
想定外が起きても、
インフラが部分的に止まっても、
それでも動き続けられる企業である。

それは、

• 効率性より耐性を重視する企業
• 正解より判断を重視する企業
• 完璧さより、立ち上がりやすさを重視する企業

である。

この企業像は、
災害対応のためだけのものではない。
人材不足、エネルギー制約、地政学リスク、
あらゆる不確実性が常態化する時代において、
企業が生き残るための基本形でもある。

第3部の結論

BCP2026とは、平時の経営を問い直す思想である

BCP2026とは、
非常時のための別枠ルールではない。

平時の経営そのものを、
有事にも耐える形に組み替えること
にほかならない。

どこを止め、
どこを残し、
誰に判断を委ねるのか。

この問いを、
平時から経営の中に埋め込めているかどうか。

それこそが、
BCP2026の成否を分ける。

 

3部作・総括として

第1部で、
「なぜ動けないのか」を問い、
第2部で、
「なぜ復旧できないのか」を構造から捉え、
第3部で、
「では、経営はどう変わるのか」を描いた。

BCP2026とは、
災害対策論ではない。

構造が変わった時代における、
企業の生き方そのものを問い直す思想である