
資材高騰時代のビル管理|中長期修繕計画で実現するコスト最適化と意思決定
「修繕の見積もりを取ったら、以前より大幅に高くなっている」
「このままでは、当初の予算どおりに工事を進められない」
こうした不安を感じているビルオーナーさまも多いのではないでしょうか。
その背景にあるのが、資材価格の高騰という外部環境の変化です。
問題は、単に工事費が高くなるだけではありません。修繕の先送りによる資産価値の低下や突発的な設備故障、さらには収支計画や資金繰りへの影響など、経営全体までリスクが広がる可能性があります。
本記事では、資材高騰の現状と背景を整理するとともに、ビル管理やオーナー経営に与える具体的な影響について解説します。あわせて、今後の対策として重要となる「中長期修繕計画」の考え方についてご紹介します。
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目次
資材高騰の現状と背景
近年、建設資材や設備部品の価格が急激に上昇しています。おもな要因は次のとおりです。
・世界的な原材料価格の高騰
・円安による輸入コストの増加
・エネルギーコストの上昇
・需給のひっ迫による資材・部品供給の制約
など
これらはいずれも、個々のビルオーナーさまの努力でコントロールできるものではありません。外部環境の変化として受け止めたうえで、自社のビル管理にどう影響するかを考えていく必要があります。
資材価格の変動リスクは、これまで受注者側が内部的に対応するケースが多く、発注者であるオーナーさまに対して十分な情報共有がなされないまま、契約判断が行われてきた例も少なくありませんでした。
こうした契約前における情報共有の課題を踏まえ、令和6年12月に改正建設業法が施行され、資材高騰が生じるおそれがあると認められる場合、工事の実施を前提とする前段階として、請負契約の締結前に受注者からオーナーさまへ関連情報(おそれ情報)を通知することが義務付けられました。
これにより、オーナーさまが事前にコスト増のリスクを把握したうえで、契約・発注の判断ができる環境が整いつつあります。
出典:国土交通省 不動産・建設経済局 建設業課「改正建設業法について~改正建設業法による価格転嫁・ICT活用・技術者専任合理化を中心に~」令和6年12月
資材高騰がビル管理に与える影響

資材高騰の波は、ビルの日常的な維持管理に確実におよび、これまでの前提が通用しにくくなっています。以下では、具体的にどのような影響が出ているかを見ていきます。
修繕・工事コストの上振れ
調達コストの増加を受け、修繕工事等の費用は全般的に上昇しています。同じ工事内容であっても、数年前と比べて費用が大きく変わるケースは珍しくありません。
過去の実績や相場感をもとに予算を組んでも、実際の見積もりと乖離が生じやすく、予算設定の前提そのものが崩れてきています。
見積もりの不確実性の高まり
資材価格の変動が続いていることで、見積もりの条件が安定しにくくなっています。同一の工事であっても、依頼するタイミングによって金額が変わるケースがあり、複数社から見積もりを取得しても単純比較が難しい状況です。
その結果、見積もりが意思決定の拠り所としづらくなり、発注や計画の判断が難しくなっています。
工事スケジュールの不透明化
資材価格の高騰は、調達環境の不安定化を通じて、工事スケジュールにも影響を及ぼしています。資材の納期遅延や供給のばらつきが生じやすくなり、計画どおりに工程を組みにくい状況です。さらに、技能者不足といった構造的な課題も重なり、工期全体の見通しが立てにくくなっています。
こうした状況は既存ビルの修繕工事にとどまらず、新築・再開発プロジェクトにおいても顕在化しており、計画の延期や見直しにつながるケースも見られます。
工期が想定より長引けば、その分のコスト増も避けられません。結果として、計画通りに工事を進めることが難しくなり、修繕計画全体のスケジュール管理に影響が出ています。
不具合の先送りによる修繕規模の拡大
コスト上昇を受け、修繕の優先順位見直しが進む中で、軽微な不具合や現時点では顕在化していない不具合への対応が後回しになるケースも見られます。
しかし、こうした判断が将来の修繕リスクを高めてしまうこともあります。
例えば、屋上防水の劣化を放置すると、雨水が建物内部へ侵入し、内装や設備にまで被害が広がる可能性があります。その結果、本来であれば中小規模の修繕で済んだものが、大規模改修工事へ発展するケースもあります。
「コストが高いため現時点では見送る」という判断が、将来さらに大きな修繕費用を招く要因となることもあるため、注意が必要です。
場当たり的な対応の常態化
設備の更新費用の増加により、計画的な更新が難しくなり、結果として個別対応が増え、場当たり的な運用に陥りやすくなっています。
個別の問題への対応に追われるようになると、全体を見渡した計画的な管理が難しくなり、結果としてトラブル発生後の対応が増え、現場の負荷も増大していきます。
資材高騰がビルオーナーさまの経営判断・組織運営に与える影響
ビル管理におけるコスト増は、オーナーさまの経営全体にも波及します。ここでは、経営面での具体的な影響について解説します。
収益・資金繰りへの圧迫
修繕・維持管理コストは上昇する一方で、テナントとの関係性から賃料や共益費への価格転嫁は容易ではありません。その結果、利益率は低下し、経営の安定性に影響が生じます。
投資判断の難化
コスト増と先行き不透明感が重なると、投資計画や事業計画の見直しを迫られる場面が増えます。修繕についても「今すぐ動くべきか、もう少し様子を見るか」という判断が難しくなり、先送りが常態化しやすくなります。
「中長期修繕計画」は資材高騰時代のビル管理にどう役立つか

資材高騰が続くなかでは、「いつ、何を、どの順番で対応するか」という判断そのものが難しくなっています。価格の見通しが立てにくい時代だからこそ、場当たり的な対応ではなく、判断の軸となる計画を持つことが重要です。その軸となるのが「中長期修繕計画」です。
資材高騰の時代でも意思決定を支えるツールとして機能します。
中長期修繕計画とは
中長期修繕計画とは、ビルの各部位・設備の更新時期をもとに、今後10年〜30年の修繕内容を整理した計画です。以下のような判断を行なうための軸として機能します。
・いつ実施するのか
・何を優先的に対応するのか
・更新か修繕か、どのレベルで対応するのか
・年間どこまで費用をかけられるのか
・ 放置した場合のリスクをどう考えるのか
これらを整理した計画があることで、状況が変化したときにも根拠を持った判断ができます。
逆に計画がない場合、設備の交換判断が場当たり的になりやすく、費用の発生時期も見通せないため、資金計画が立てづらくなります。コスト管理が難しくなり、経営の安定性にも影響が出やすくなります。
中長期修繕計画により資材高騰時の修繕の優先順位を整理し限られた予算を活かす
資材高騰が続く状況では、高騰前と比べて修繕にかかるコストが増加し、当初予定していた工事をすべて実施することが難しくなるケースも出てきます。そのような状況だからこそ、何を優先するかの判断が重要になります。
資材価格が変動する局面においても、中長期修繕計画を策定しておくことで、各部位・設備の更新時期や劣化状況を体系的に把握することが可能であり、優先順位の判断がしやすくなります。
まずは中長期修繕計画をベースに、実施しなければ建物の安全性や事業継続に支障をきたす工事と一定期間の延期が可能な工事を切り分けることが重要です。
そのうえで、以下のように段階的に優先順位を整理していきます。
【第1段階】最優先(安全性・事業継続に直結)
建物の安全確保や機能維持に直結し、放置すると事故や事業停止につながる可能性が高い工事を最優先にします。
具体的には、受変電設備や消防設備、給排水設備など停止や故障が事業継続に直接影響する設備更新が該当します。
また、防水や外壁についても、雨漏りの発生や外壁の剥落など安全性に影響する状態にある場合は、優先度が高くなります。これらは単なる経年劣化ではなく、リスクの顕在化状況に応じて判断することが重要です。
【第2段階】優先的検討(劣化進行による影響が大きい)
現時点で直ちに危険が生じるわけではないものの、劣化が進行すると修繕範囲の拡大やコスト増につながる工事を次に優先します。
設備更新や部分的な改修などが該当し、劣化状況を見極めながら、適切なタイミングで対応することが求められます。
【第3段階】調整可能(緊急性が比較的低い)
美観の向上や快適性の改善など、緊急性が比較的低い工事については、ほかの工事と時期を調整しながら段階的に進めることが有効です。コスト動向を見極めつつ、実施時期を柔軟に検討できます。
このように、劣化の進行度合いと、放置した場合の影響範囲を踏まえて段階的に整理することで、限られた予算の中でも合理的な修繕判断が可能となります。
工事仕様・発注方法の見直し
資材価格の高騰により、中長期修繕計画と実際の工事費用との間に乖離が生じる中でも、優先順位を整理したうえで実施対象となった工事については、工事仕様や発注方法を見直すことで、さらなるコスト最適化を図ることが重要です。
具体的には、対象工事に対して相見積を取得することが有効ですが、その際は単純な価格比較にとどまらず、工事範囲・仕様内容・工期・品質水準などを総合的に比較・精査する視点が求められます。仕様の過不足を見直すことで、必要な性能を確保しながらも無駄なコストを抑えることが可能になります。
また、工事の施工時期を戦略的に調整する視点も欠かせません。特に、年度末など需要が集中する時期を避けて施工時期を分散することで、工期の逼迫リスクを低減でき、より安定的かつ効率的な工事計画につながります。
短期的なコストだけで判断するのではなく、工事を先送りした場合の劣化リスクと中長期なトータルコストの観点から工事内容、発注方法を最適化していくことが、資材高騰時代における賢いビル管理につながります。
計画の定期的な見直しで「環境変化に対応」できる
中長期修繕計画は、一度作成して終わりではありません。計画は固定的に進めていくものではなく、不確実性を踏まえて意思決定を行うための判断ツールです。資材価格や労務費の変動、建物の劣化状況の変化、さらには経営環境の変化などを踏まえ、計画内容が現状や将来見通しと乖離していないかを定期的に確認し、必要に応じて見直すことが重要です。
実務的に、中長期修繕計画の見直しは、「5年に1回は中長期修繕計画を全面的に見直す」ことを原則とするなど、あらかじめ基準となる定期見直しのタイミングを定めることが有効です。これに加えて、社会情勢の急激な変化、法令・基準の改正、災害・事故の発生、想定外の故障、急激な劣化の顕在化など、臨時的な見直しを明確に区分して運用することが必要です。
例えば、今回のような資材高騰の局面では、価格が毎年変動しており、いつ実施するかによってコストが大きく変わります。この状況で見直しを行わないことは、変化を考慮せず、毎年同じ判断を据え置いているのと同じです。
その結果、より高い時期に発注してしまうなど、コスト面で不利になる可能性があります。こうした理由から、年1回の見直しはコスト最適化のためにはおすすめです。
計画の見直しにあたっては、価格変動を反映した修繕コストの再試算に加え、限られた予算の中でどの修繕を優先すべきか、実施時期を変更すべきかといった観点から、優先順位や実施スケジュールをあらためて検討することが必要です。さらに、見直しの過程では、当初の計画立案時には候補になかった新しい工法や省コスト化技術、関連法令の改正動向を踏まえて、計画を更新していく事も有効です。
このように、コストの再試算や優先順位の見直し、さらには計画内容自体の更新を継続的に行うことで、外部環境の変化に対しても、都度柔軟に判断ができる状態を維持することが可能となります。
中長期修繕計画を「生きたもの」として運用していく姿勢が、安定したビル管理につながります。
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「中長期修繕計画」のご相談は大阪ガスファシリティーズへ
資材高騰は単なるコスト増の問題ではありません。ビルの維持管理から経営判断まで、幅広い領域に影響をおよぼす構造的な問題です。
不具合対応を先送りにするほど劣化は進行し、結果としてより大きなコストとリスクを抱えることになります。こうした状況だからこそ、中長期修繕計画の作成が重要です。中長期修繕計画は、資材価格の変動や外部環境の変化に応じて、修繕の優先順位や実施時期を判断するための経営判断するツールとして機能します。
大阪ガスファシリティーズでは、設備台帳の作成から、中長期修繕計画の作成までサポートしています。「中長期修繕計画が現状に合っているか確認したい」「修繕の優先順位を整理したい」「将来の修繕費を見通したい」このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
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