
大学施設管理に欠かせない「設備台帳」とは?|複雑化するキャンパス運営を支える基盤づくり
「建物ごとに設備の管理方法がバラバラで統一されていない」
「設備の更新時期がわからない」
「紙の記録がどこに保管されているのかがわからない」
など、大学の施設管理において、このような課題を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。このような問題を解決し、大学施設の安定的かつ効率的な運営を考える上でキーのひとつとなるのが「設備台帳」です。
本記事では、大学施設で設備台帳を整備しないことで生じるリスク、設備台帳が重要である理由、設備台帳を作成する具体的な方法について解説します。
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目次
設備台帳を整備していない大学施設ではどのようなリスクがあるのか?
まずは、設備台帳が未整備の場合に生じる具体的なリスクについて解説します。
初動対応が遅れ、授業・研究が中断する
設備の突発的な故障が発生すると、「いつ導入されたのか」「メーカーや型番は何か」といった基本情報を探すところから始めなければなりません。
担当者が現場を確認し、過去の資料を掘り起こす間にも時間は過ぎ、復旧は大幅に遅れます。しかし、設備台帳が整備されていれば必要な情報に即座にアクセスでき、関係各所への連絡や代替手段の検討を迅速に進めることが可能です。結果として、授業や研究の中断を最小限に抑えることができます。
また、大規模な大学ではキャンパスや施設ごとに設備管理の担当者が異なることがあるため、記録内容や管理方法にばらつきが生じやすいのが現状です。設備台帳が未整備のままだと、同時期に導入された機器が複数の部署で故障した際に、情報共有ができず連携が取れないという問題が発生します。
その結果、部署ごとに個別対応を余儀なくされ、復旧に余計な時間とコストがかかることになります。一方で、大学全体を通して同じ設備台帳による一元管理を行えば、同型機器の故障傾向を把握し、予防保全や効率的な一括対応が可能になります。
属人化により情報の引き継ぎが困難になる
設備台帳が整備されていない場合、設備に関する情報は特定の担当者の記憶や個人的なメモに依存しがちです。
「あの設備のことなら○○さんに聞けばわかる」という状況は、一見便利なように見えますが、その担当者が異動や退職をした途端に情報へのアクセスが困難になるリスクを抱えています。
引き継ぎ資料が不十分だと、後任者は一から設備の状況を把握しなければならず、その間に業務効率や質が低下します。さらに、長年現場で培われたベテラン職員の知識やノウハウが組織に蓄積されないことは、大学にとって大きな損失です。
設備台帳を整備して情報を共有化すれば、担当者が変わっても業務を円滑に継続でき、組織としての知識資産を守ることができます。
重複投資や無駄な修繕コストが発生する
「どの設備がいつ更新されたのか」「修繕履歴がどうなっているのか」といった情報が不透明になると、まだ使える設備を誤って更新してしまうといった無駄な投資が発生します。一方で、老朽化した設備を把握できずに放置していると設備不良が発生する頻度も高まり、対応の手間などにより生産性の低下とともに多大な修繕コストが必要となるリスクも高まります。
また、複数のキャンパスや建物で同種の設備を管理している場合、情報が分散していると重複した発注や無駄な在庫を抱えてしまう可能性もあります。小さな不具合を見逃した結果、致命的な故障に至り、本来なら部分修理で済んだものが全面的な交換を余儀なくされるケースも少なくありません。
法令遵守・安全面でのリスクが拡大する
設備台帳が未整備だと、法定点検の実施状況や期限を正確に把握・管理することが困難になります。法律で定められた点検を見逃せば、法令違反として行政指導を受けるだけでなく、万が一事故が発生した際には大学としての管理責任が厳しく問われることになります。
また、点検記録が整理されていなければ、検査の際に必要な書類をすぐに提示できず、対応に時間を要する恐れがあります。さらに、老朽化した設備の状態を正確に把握できていない場合、学生や教職員の安全が脅かされる重大なリスクにも繋がる可能性があります。
設備台帳を整備し、点検や修繕履歴を一元的に管理することは、法令遵守の徹底と安全な教育・研究環境の維持にも直結します。
大学施設運営において設備台帳の重要な4つの役割

大学施設の運営において設備台帳はどのような役割を果たすのでしょうか。次に、設備台帳の重要な役割について4つ解説します。
1.キャンパス全体を「見える化」し、現状を正確に把握する
大学のキャンパスには、複数の校舎や研究棟、体育館など多数の建物が点在しており、空調、電気、給排水、エレベーターなど、多岐にわたる設備が膨大に存在します。
これらの設備がどこに、いくつあり、どのような状態なのかを正確に把握することは、施設管理担当者にとって大きな負担になるでしょう。
設備台帳を整備すれば、設備の設置場所、仕様、メーカー、導入年度などの情報を一元管理できます。その結果、「この設備はどこにあるのか」「どの建物に何があるのか」といった基本的な情報を即座に把握することができ、「見える化」が実現します。
2.老朽化リスクを予測し、授業中断を防ぐ
授業中のエアコン停止、実験中の電気系統のトラブルなどは、学生の学習機会や教員の研究活動に大きな影響をおよぼします。特に精密機器を扱う研究室や、夏季・冬季の空調停止は深刻な問題です。
設備台帳で各設備の導入年度や更新履歴を体系的に管理しておけば、耐用年数や類似設備の管理実績をもとに老朽化のタイミングを予測でき、計画的な点検や更新が可能になります。
このように、突発的な故障を未然に防ぐ予防保全の仕組みを構築することで、授業中断や研究計画の遅延といった運営リスクを最小限に抑えることができます。
予防保全についての関連コラム「予防保全とは?メリットと課題・実現するためのステップ」
3.設備投資のコスト計画に活用できる
大学の設備投資には多額の予算が必要であり、単年度の予算だけですべてを賄うことは現実的ではありません。
設備台帳で各設備の導入時期や更新履歴を可視化しておけば、今後5年、10年といった中長期のスパンでどの設備をいつ更新すべきかを明確に把握できます。その結果、予算計画の立案や補助金申請の対応を的確かつ効率的に進められます。
また、計画的な設備投資を行うことで、突発的な大規模支出を防ぎ、大学の財政負担を平準化することが可能になります。
4.大学運営におけるBCPと安全管理を支える基盤となる
大学には多数の学生や教職員が日々活動しており、貴重な研究データや実験設備が保管されています。地震や水害などの災害が発生した際、どの建物のどの設備が被害を受けたのかを迅速に把握できなければ、復旧作業が大幅に遅れてしまいます。
設備台帳で設備の配置や重要度を事前に整理しておけば、被災時の優先復旧順位を明確にでき、授業の早期再開や研究活動の継続が可能になります。また、自家発電設備や防災設備の点検履歴を記録・管理しておくことで、緊急時にも確実に機能する状態を維持できます。
設備台帳は、大学のBCP(事業継続計画)と安全管理を支える中核的な基盤であり、学生や教職員の安全確保や研究資産の保護といった、大学が果たすべき社会的責任を実現するために不可欠な仕組みです。
設備台帳についての関連コラム「設備台帳とは?作成するメリットや記載項目・作成時の4つのポイント」
大学施設における設備台帳整備の具体的手順

設備台帳の重要性を理解したうえで、次に考えるべきは「どのように整備し、運用していくか」という実践的な課題です。ここからは、大学で設備台帳を導入・運用するための具体的なステップと、実務で押さえるべきポイントについて解説します。
設備台帳導入準備
――既存設備の現状把握と台帳作成の準備を行う
設備台帳がまったくない状態からスタートする場合、まずは大学内に存在するすべての設備を洗い出す必要があります。過去の竣工図面、修繕履歴、購入記録などの資料を収集し、どこにどのような設備がいくつあるかを正確に把握することが重要です。
同時に、設備の種類ごとにメーカー、型番、設置年月、点検履歴といった管理項目の統一ルールを策定しておくことで、後のデータ整理や更新作業を効率化できます。
複数のキャンパスを保有する大学では、部署ごとに記録方法が異なる場合も多いため、共通フォーマットの整備が不可欠です。
また、大規模キャンパスでは多数の設備が存在することもあり、優先順位を設定して段階的に整備を進める体制づくりも求められます。
――データをデジタル化する
紙ベースの台帳では、情報の検索や更新に時間がかかり、複数の担当者で同時に確認することが難しいという課題があります。設備情報をデジタル化することで、必要な情報に瞬時にアクセスでき、どこからでも最新の状態を共有することができます。
さらに、クラウド型のシステムを活用すれば、施設管理部門だけでなく、財務部門や経営層との連携も容易になり、予算計画や意思決定のスピードが大幅に向上します。
また、情報の重複や記載ミスの防止にも繋がり、常に正確で信頼性の高い情報を維持することが期待できます。
設備台帳導入後のアップデート
設備台帳は導入してすべてが完結するわけではありません。
正確な情報を維持するためには、定期的な更新と現地調査による台帳と現物との突合せが不可欠です。運用ルールを整備し、責任者を明確にすることで、台帳の信頼性を高めることができます。
――定期点検を実施し記録を徹底する
法定点検はもちろん、日常点検や定期メンテナンスの内容も台帳に記録することで、設備の経年劣化や不具合の傾向を可視化できます。点検結果を継続的に蓄積していけば、設備の故障のパターンや予兆をとらえやすくなり、予防保全の精度向上に繋がります。
また、点検漏れを防ぐために、年間スケジュールを設備台帳で一元管理し、担当者が一目で確認できる仕組みを作ることが重要です。記録を積み重ねることで、設備台帳は単なるリストではなく、大学施設の計画的な維持管理を支える実用的なツールへと進化します。
――更新・修繕履歴を反映する
設備の更新や大規模な修繕工事を実施した際は、更新年月日、工事内容、施工会社などの情報を台帳に反映させます。
これにより、次回の更新予測や補修を判断する根拠になります。
また、過去にどのような工事が行われたかを把握できれば、同じ設備で繰り返し発生する不具合原因の特定や再発防止にも役立ちます。
工事履歴が不明確だと、保証期間内の不具合であっても対応が遅れるリスクもあるため、記録の徹底は欠かせません。
――継続的な見直しとアップデートを行なう
設備台帳は一度作成して終わりではなく、継続的に見直しとアップデートを行なうことが不可欠です。新たな設備の導入や廃棄、改修工事なども随時発生するため、情報を都度最新化する必要があります。
また設備台帳の精度を維持するためには、実際に現場を巡回する現地調査が欠かせません。図面や台帳上のデータだけでは把握できない設備の劣化状況、設置環境の変化、未登録の設備などを把握します。
定期的に現地調査を実施し、現場で確認した内容を台帳に反映させることで、データと実態の乖離を防げます。特に大規模な大学キャンパスでは、担当者が普段立ち入らないエリアもあるため、計画的な現地調査が重要です。
このように定期的に台帳の内容を確認し、現場の実態と照らし合わせて更新する運用ルールを設けましょう。担当者が変わっても更新作業が滞らないよう、更新手順をマニュアル化しておくことも効果的です。
設備台帳を常に「生きた情報」として維持することで、信頼性の高いデータ基盤が整い、安全で効率的な施設管理の実現に繋がります。
「設備台帳」のご相談は大阪ガスファシリティーズへ
設備台帳は、大学の安定的な施設運営を支える基盤であり、計画的なコスト削減や災害時のBCP強化にも欠かせないツールです。属人化を防ぎ、組織全体で設備情報を共有することで、大学の資産を長期的に守る仕組みが整います。
ただし、設備台帳の整備には専門的な知識と現地調査のノウハウが求められます。こうした作業を効率的に進めるには、外部の専門会社によるサポートの活用が有効です。
大阪ガスファシリティーズでは、オーナー代行サービス「UFM」の一環として、現状設備の確認を行い、設備台帳の作成・更新までをトータルで支援しています。大学施設の設備台帳の整備でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
「設備台帳」に関する問合せは大阪ガスファシリティーズへ
